大芸道


マーベルランドの長い1日

パコは、「マーベルランド」と書かれた、きらびやかない看板の下をくぐった。かわいらしく着飾ったロボットたちが手を広げ、パコを歓迎する。
今日は遊ぶために来たのだった。いつも彼に襲い掛かってきたモンスターたちは、今日はただのぬいぐるみになっている。

パコはふと、あるものを目にした。「マーベルゲームセンター」と読める。彼は知らず知らずのうちにそこに脚を運んでいった。
中にはパコの見た事のないゲームがずらりと並んでいた。グラディウスVIII、ワルキューレの神話、テットリスだ!1999……その中に、パコは奇妙な新製品を見つけた。「マーベルファイト」ととタイトル画面にある。

マーベルファイト…パコの脳裏に一抹の不安がよぎった。改めて見直したが、確かに「ファイト」と言う文字があのゲームのような字体で書かれている。
パコはコインを入れ、ゲームをスタートした。そして表情をひきつらせた。

さっきパコが入ってきた入り口のような所が、「うおおお〜っ!!」と言う雄叫びとともにぶち壊れ、そこからハガーがあの巨体をのそっと現したのである。辺りのロボットたちはボロクズのように吹っ飛ばされている。
ゲームが始まり、敵が近付いてきた。ジャンプだ。パコはジャンプボタンを押した。

「ういお!」

突然ハガーは自分の半分もない敵にフライングボディプレスをかけた。敵は紙のような薄さになって飛んでいく。
ダストシュート(ゴミ箱)があった。あそこをずらせばアイテムが出る。パコはレバーを倒し続けた…が、ハガーは一撃でダストシュートを破壊してアイテムをむんずとつかむ。少し進むと、モグラの船長が現れた。あいつはダメージ2回で倒せるはず。

「であーっ」

パコは呆然とした。ボタンを押した途端、ハガーは船長にドロップキックをくらわせたのである。当然、船長は一撃で死んだ。

ワールド1-3…ジェットコースターだ。看板が近付いてくる。だがハガーは看板を次々と拳で打ち砕いていった。しゃがむと言う動作はないようだ。

ここもクリアだ。パコはレバーから手を離した。少し経つと、画面上のハガーはこちらを向いて「ニヤリ」と笑う。パコがびっくりして立ち上がった途端、いつもの横を向いた無表情な顔に戻った。
恐ろしい…レバーはいつも倒しておかなければ…。パコは思った。

ワールド1最後の1-4も、パコは余裕でボスまで辿り着いた。
「ハガー!ここから先は通さんぞ!」
ハガーはグレートコンドルが話しているのを無視して近付いていく。パコは言葉を失って事の成り行きを眺めていた。
「ここを通りたければ…ぐえっ」
ハガーはグレートコンドルの首をつかみ上げた。ゴツ、ゴツ、「へいぁ!」 ズズーン!(死)

花の妖精フローリーが結界を破ってハガーのもとにかけつけた。「ありがとう…ハガー」

「うおおおーっ!!」

ハガーはいきなりダブルラリアットでフローリーを殴り倒し、トライデントスターを掴むとすたすたと立ち去っていった。
パコはふらっと立ち上がった。無茶苦茶なゲームだ。疲れた表情で、彼は表に出る。
ふと気付くと、人が誰も居ない。おかしい…さっきまでたくさんいたのに。

数秒後、パコははっと顔を上げた。ここはマーベルランドだ!そしてこの地区は「ワールド2−1」
パコは顔を蒼ざめさせながら、後ろで響く地響きのような足首を確実に聞き取っていた…。

(岩手県 青蒼竜君(当))

暑い夏は、かような事がおこっても不思議ではない、かも。

(月刊ゲーメスト90年9月号 No.49掲載)




闘士の名
(ストリートファイターIIより)

汗が頬を流れ落ちる。
目の前の赤い軍服を着た男は、不敵に笑いながら、一分の隙もない構えを解こうとはしない。

倒さねばならない。白い空手着の男…リュウは顎を引き、こちらも構えを取り直した。

「ほう…いい構えだ。しかし、隙がないのなら作るまでのことだ!」
言うが早いか、軍服の男−リュウはその名を知っていた。ベガ、と−はすべるような不気味な動きでリュウに襲い掛かった。

並の人間ならそれだけで手足の1本や2本、下手をすれば命すら覚悟しなければならないであろう攻撃であった。
しかし、リュウはそれを全て防いでいた。彼の腕と、意地と、背負っている数々の戦友(とも)たちの想いが、それを可能にしていたのである。

そう、彼は防いでいた。だが、ベガの一撃一撃を防ぐたびに、リュウの頭の中には大きく、しかも急速に、恐ろしい疑問が浮かび上がっていた。
「勝たなければならない」…この意思は「勝てるのか…!?」と言う疑問に押しつぶされてしまっていたのである。

次の瞬間…リュウの額がぱっくりと割れた。ベガのかかと落としが、顔面に叩き込まれていた…。勝ち誇った笑いを浮かべるベガの顔が、自分の血を吸っているような錯覚に−いや、本当にそうなのかもしれないが…襲われた。

リュウはかろうじて立っていた。意識と肉体が分離したようだ。かすむ目に映る赤い男の手が青く燃えているように見えた。炎はやがて男の全身を包み、火だるまの魔人と化した。

「こんな奴に勝とうと思ったのが馬鹿だったんだな…」
リュウは、自分が敗れる事を正当化しようとしていた、無意識のうちに。


「悟りを開くのだ…」
ダルシムの声が響いた。

「日本人の魂を世界に見せるでごわす…」
本田は笑った。

「俺に勝ったんだ、どんな奴にも負けはせんさ」
ザンギエフは、そう言ってリュウの肩を叩いた。

ブランカは何かを叫んで祝福してくれたようだ。

「父さんの、もういない父さんのために…」
春麗は泣きじゃくっていた。

「世界を…友のために…頼む」
ガイルは唇を噛み締めた。

「負けるのは許されねえぞ」
バイソンはニヤリと笑った。

「美しいものは…敗れては…」
バルログは仮面を放った。

「俺がお前を倒すまで、お前は、世界一でいろ!」
サガットは、言った。


「でも…俺は、どうしたらいいんだよ…!」

リュウは泣きそうになった。赤と青の炎の塊…ベガが、恐ろしい殺気を放ち突っ込んでくる。

…どうする事も出来ない。いまだ響き続ける声に、詫びようと思った時…!

「リュウッ!!」

誰かが叫んだ。あるいは自分自身の叫びだったのかも知れない。

「ケンッ…! そうだ…俺には背負っているものがあるんだ…何より大切な!!」

だらりとしていた右腕が、拳が、恐ろしい勢いで真上に跳ね上がった。血がにじむほど踏み込まれた右足が、軸足の左足が、宙に舞った…。

昇龍拳…くらったものは誰もがそう叫んだろう。顔面をまともにとらえられたベガには、永久にその機会はなかったが…。


世界で最も強い男…。その噂は世界各国に広がった。しかし男の行方はわからず、いつしか男の名すら忘れ去られていった…。

酒場で耳にすることが出来るかもしれない。土地の腕自慢を相手に、路上で大立ち回りを演じる道着姿の男。人々は彼をこう呼ぶ。…"ストリート・ファイター"と…。


(東京都 かみるかみら君)

なんだかストII一色になってしまった今月号。しかし、泣きには弱いんだよね〜。

(月刊ゲーメスト91年7月号 No.59掲載)



GAMEST AND FAMITSU REPRINTED EDITION


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